はじめに
現在募集を開始している起業家育成コースの『
fwywd(フュード)in 淡路』は
受講料が無料です。今回はこの『
受講料無料』に込めた思い、そして、これが最終的に私の考える真の教育像に近づいていく話も含めて丁寧に背景を紹介させてください。
この受講料無料は、単なる客寄せパンダとしてではなく、これは新たな教育ビジネスへの挑戦です。
教育に本気の革命を。
成果が出せる人材を輩出する教育の構造を紐解いていくと、この受講料無料に帰着しました。
本気で変わるために必要な関係性
受講料が研修ビジネスの当たり前
今回の企画『
fwywd(フュード)in 淡路』は
1年間、経営と技術を学べる環境を提供する上に私が淡路島に一緒に移住してビジネスの構築に向けて一緒に伴走します。受講料無料でないとビジネスが成立しないか?と言われるとそんなことはありません。弊社では過去に
有償で 50,000 名の方に AI・DX を含めた先端技術に関する研修を提供しており、しっかりと報酬をいただいて仕事をしてきました。そのため、今回の企画も
相場的には数百万円の金額をいただいて始めることも当初の計画にありました。
しかし、創業から5年目が経ち、多くの方の成長を見守る傍ら、今のやり方が本当に正しいのだろうかと自問自答することもありました。その背景として、受講生が講義中はとても満足して講義を受けていただいており、実際に満足度も高い一方で、その後の活躍を聞いてみると、なかなか次の一手が踏み出せていないと悩まれている方が多かったのです。
受講料を支払って教えてもらうということは現代の学校の構造に慣れた私達にとって最も親和性の高いものです。塾も大学も、社会人になってからの研修も当然このビジネスの構造であったはずです。もちろん、弊社のビジネスも基本的には受講料をいただいてスタートします。最初の挫折を防ぎ、自力で学んでいけるところまでの自走力を付けるといった学びのきっかけを与える場合には、この受講料を最初にいただくビジネスモデルの方が、教える側、教わる側の双方にとって良いと思っています。
受講生との関係性の歪み
一方で、起業家育成のような成果にコミットするタイプの教育では少し構造が違います。極端な話、たとえ受講生であっても成果が出ない場合には諦めていただくことを許容する必要があります。
また最終的に成果を出していただくためには、手取り足取り教えても意味がないのです。経験上、1 から 10 まで丁寧に教えた人よりも、1 教えると 10 まで自分でなるべく考えながら試行錯誤していく人の方が圧倒的に伸びが違います。つまり、手取り足取り教えるという教育は易しい (easy) だけであり、受講生の本当の成果を願うといった観点での優しさ (kind) ではないのだとわかりました。
しかし、残念ながらこういった成果に対してコミットが必要な教育の場合においても、受講料を支払っていただいた以上、「お客様は神様だ」という構造になってしまいます。サービスを受ける側と提供する側といった上下関係のある構造になってしまうことで、本当に言いたいことを言えなくなってしまいます。教えてほしいと望まれた以上、本当は自力で調べるべきところでも教えざるを得なくなってしまう歪みが生じてしまいます。
これからの時代はきっかけを与える教育も大切な一方で、先端技術の社会実装が進んできた昨今では、成果にコミットするタイプの教育も需要が増してきています(筋トレみたいですね)。
社員の成長がヒント
この本当に成果が出せる人材を輩出するための教育に着目し始めたのは私が組織を構築して社内の教育を始めたころからでした。キカガクでは現在 35 名の社員とともにビジネスを展開しています。
基本的な募集の入り口は講師採用のみに絞っており、全員が講義を担当できるようになった後、コンテンツ開発、セールス、マーケティング、プロダクト開発など、様々な部署に分かれていきます。そのため、バックグラウンドは文理様々ですが、全員がプログラミングや数学などを学ぶことによって、論理的思考力を鍛えてもらっています。
さて、では講師として登壇していただくための2ヶ月間の社内研修はどのように設計しているかというと、ある3日間のコースを登壇できるようにひたすらインプットとアウトプットを繰り返すだけです。先輩講師の講義を見て学び、徹底的に真似しながら教える練習を行い、定着してきたところに自分の色を出していく。表面的に教える内容だけでなく、先輩に模擬授業を見てもらったときに、さらに深い質問があるため、より深いところを学んでいく。そんな自律的な学びを中心とした研修です。
正直なところ、そこまで手塩にかけて育てるという感じではありません。もちろん、モチベーションを上げていけるようにフォローしたり、迷っていそうであればヒントを出したりします。それでも、手取り足取り教えるということはありません。残念ながら2ヶ月間の研修期間で合格点に到達できない方もいらっしゃるので、みんな必死に学びます。
教育の前提条件が正しいか
そして、キカガクは全員が未経験採用であるにも関わらず、いまや大手企業の研修をたくさんいただき、研修のコンペティションではほとんど勝っているそうです。自分たちで言うのもなんですが、もちろん、研修での満足度は非常に高く、リピートも多くいただけるようになりました。そんな本気で成果を出せる人材を輩出できるようになってきた今、重要なことに気づいたのです。
それは教育の前提条件です。なぜ、ここまで成果を出せる人材を育てることができるのか。
その答えに真っ向から向き合う勇気がなかっただけかも知れません。
弊社だけでなく、企業の社内研修では学校の学びよりも遥かに成長したという声があります。なぜ、学校ではこの情報を教えてくれなかったのか。
利害の一致
その教育の前提の正体は利害の一致です。この関係性を築くことができないと、構造上、人の成長に対して適切なアプローチを取ることができません。
もう少し噛み砕いて説明すると、弊社の場合、研修期間に不合格になってしまうと人件費も含め多くの機会損失が生じます。つまり、育成対象がうまく成長しないと弊社も一緒に損をするという関係です。一方で、うまく成長することができると一緒にビジネス拡大を進めていけるため、弊社が得をするわけです。この関係性こそが利害の一致です。
多くの成果が出せる人材を輩出する教育の構造を紐解いていくと、結局、この利害の一致に帰着しています。
起業家育成の枠組み
受講料無料の理由
ここまでお読みいただけたのであれば、お気づきの方も多いと思います。今回の起業家育成では成果を出せる人材を輩出することが重要であり、そのために必要な関係が利害の一致となることです。したがって、受講料をいただいてサービスの提供側と受ける側になってしまった時点で、力がうまく伝わらなくなってしまいます。
だからこそ、今回の企画では受講料無料としました。だからこそ、受講生には『私はみなさんの仲間です』と伝えています。受講生のお世話係でもないし、ご機嫌を取るための教育係でもありません。一緒に伴走する仲間であり、苦楽をともにする関係です。だからこそ、手取り足取り教えることなく、成果が出るためのマネージメントに近しい形の教育を提供します。
『魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える』
これを関係性から正しく構築するために受講料無料というスタートラインに立つことが最も重要だったのです。
入口や出口でのマネタイズの課題
成果を出すために受講料無料による『利害が一致した仲間』という関係が必要ですが、それではビジネスが当然成立しません。つまり、戦略が必要となります。
私は受講料をいただくビジネスモデルを入口型と呼んでいます。その一方で、転職支援などでマネタイズを行うモデルが出口型と言えます。一番わかり易いところでは、起業家としてなかなかうまくいかなかった際に、転職を薦めて人材紹介で報酬をいただくこともできます。もちろん、これも選択肢には入っていますが、ただこれをメインの収益源にしようとすると、起業家を育てるというよりも転職支援のためのサービスに構造的になってしまいます。起業家を目指して本気で挑戦する中で企業の新規事業担当としての選択を取ることは良いと思いますが、最初から市場価値を高める転職のために来られても本気度が低く、この企画の意図に沿いません。
また、起業家側からの希望があれば投資家として関わっていくことも本企画では想定しています。ただし、社会課題の解決を目指すためには短期利益の追求では歪みが生まれてしまうため、なるべく自己資本で自由度が高く取り組めることが望ましい場合も多いと思います。そのため、VC が実施するアクセラレータープログラムやインキュベート系のプログラムのように投資を受けてからスタートとしてしまうと構造上の欠陥がゆくゆくは浮き彫りになってしまうのです。
私達は最短 Exit 主義のユニコーン企業だけではなく、社会貢献と長期利益を目指すゼブラ企業の挑戦も支援していくために、投資家としては関わらないという選択肢も用意したかったのです。
過程でのマネタイズという選択
そこで、
fwywd(フュード)が注目するのは『
過程』でのマネタイズです。最近では
プロセスエコノミーという書籍も発売されるなど、私が長年注目してきた領域でした。たとえば、アイドルグループの NiziU がデビューまでの過程をビジネスにしていたような話が代表的です。つまり、
成長の過程をビジネスに変換するのです。
今回の起業家育成の企画では、参加者に情報発信を行っていただきます。まさに、みなさんが今読んでいただいているこの記事のように、自身の考えやアイディアを発信していただきます。
情報発信を行っていただくことは、もちろん、起業を志す挑戦者にとって必要な道筋だからです。
最近ではプロダクトを作ってから検証するといった失敗例をよく聞きますが、プロダクトを作るよりも、市場に対して最小のコストで仮説検証を行えるのが情報発信です。そこで反響がなければ、プロダクトを作ったとしても、当然ユーザーは集まりません。そもそも、情報発信などで獲得したファンが存在しない場合は、仮説検証すら空振りしてしまうのです。
起業家にとっての基礎体力は言葉の力であり、これを磨くためには情報発信が必要なのです。言葉の力が強い人にはファン、顧客、仲間、投資家と多くの人が集まるはずです。私もこの言葉の力を磨くことにより、いまの会社の礎を築くことができました。
フックと回収の戦略
起業家志望の方が情報発信を行い、ファンや顧客を獲得していくところを
fwywd(フュード)では
教育と
プラットフォームの力で支援します。
教育は単純で読まれるための文章や構成の考え方などを伝え、あとは実践を通して経験から学んでいただくだけでわかりやすいと思います。
プラットフォームの力で支援とは、ある参加者 A さんが情報発信を行うと、その記事を読んで興味を持った方が別の参加者 B さんの情報にも遷移することがあります。また、良質な記事の発信が多くなることにより検索にもヒットしやすくなり、個の力で取り組むよりも大きな結果が得られます。参加者の力を合わせることで、この規模の経済を効かせていくことが狙いです。
また、読者が増えるということはリード顧客が増えることにも当然繋がります。起業における最初の困難である集客という問題にも、個で取り組むよりも大きな成果に繋げることができます。もちろん、このプラットフォームは発射台として利用していただければ OK で、大きくなって独自の顧客を確保できるようになってきたころには、健全なビジネスのために、独自の情報発信手段に乗り換えてもらうことを推奨しています。
このように、参加者同士での情報発信が規模の経済を生み、一人で起業して挑戦するよりも遥かに大きな Win が参加者にあります。その良質な情報を集めたプラットフォームを作ることができれば、弊社にとっては大きなフックとなります。弊社ではいくつものサービスを展開しているため、知名度が上がることで回収できるマネタイズの手段があります。このフックと回収を戦略的に作ることでビジネスを伸ばすことができ、回収を既に持っている弊社にとってはフックの構築ができることが Win となります。
ビジネスとして Win-Win の関係
参加者としては、自身のファンや顧客の起点となる記事の PV 数が伸びるほど Win です。弊社としては、プラットフォーム上での PV 数が伸びるほど Win です。つまり、それぞれの利害が一致しており、参加者の情報発信に対する PV 数が伸びなければ、我々も損をすることになるため、必死に情報が広がるように支援していくのです。
Win-Win とは良く意識高い系の言葉で言われることがありますが、本当に成果を出すための支援をするためにはこのような Win-Win の関係を戦略的に築くことが重要だと痛感しています。構造的に一方向のみが得をするようなサービスの作り方では持続可能な成長を遂げることができないのです。
この
fwywd(フュード) の仕組みでは、継続するほど情報が蓄積して、より検索に対する力を増していくことで、知名度が低い場合でも情報が届きやすくなります。つまり、
過去の先輩の力が次の世代の起業家に繋がり、その成長を支援することもできるのです。
これが
起業家を輩出するための真のエコシステムであり、
fwywd(フュード) は
全ての起業家の起点になることを目指しています。
おわりに
本企画は声高々に挑戦を宣言していますが、弊社キカガクの中でもまだまだ実験的な立ち位置です。そのため、いくつかの無料講座の提供には踏み込みはじめましたが、多くは受講料をいただいて実施しています。もちろん、社内のメンバーとは今回の企画を皮切りに、受講生と良き仲間となるような構造に変革していけると良いよねと話しております。現存の講座は受講料をいただく以上、もちろん精一杯の講義を務めます。
変革にはトリガーが必要であり、なんとしても今回の企画を成功に導き、教育に新しい風を吹かせられるよう尽力する所存です。このように過程によるマネタイズでのビジネス化が実現できると、経済状況による教育の機会格差を減らすことができます。
まだまだ私達ではそこまで踏み込める力があるとは言えませんが、より良い社会へ向けて一歩一歩進んで行きます。ぜひ、
fwywd(フュード)含めまして、
キカガクをこれからも温かくご支援いただけますと幸いです。
長文となりましたが、最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。