井の中の蛙が人の力を引き出す、群に対する教育の設計術 ~ 専門家が怖くて発言できない、こんな世の中に ~

井の中の蛙が人の力を引き出す、群に対する教育の設計術 ~ 専門家が怖くて発言できない、こんな世の中に ~

大人になってから学ぶの辛くないですか?

子供のときより目的意思を持って学べる大人の学びは楽しいですよね。
でも、大人になってから学ぶことが億劫になったこともありました。
その理由は学びを共有する相手がいないことです。
もちろん今どきは SNS での繋がりで共有することもできますが、思わぬ落とし穴が...。
気軽につぶやいたつもりが、専門家からマサカリと呼ばれる技術的な指摘が飛んでくることがあります。
ツヨツヨな人の意見だけが飛び交う上級社会と化した SNS
子供のときほど無邪気に学べないこのご時世。
専門家が怖くて発言できない、こんな世の中に。
もっと大人が学びやすく、人の力を引き出すことができる教育のあり方があるのではないか。
今回は教育系ベンチャー企業であるキカガク代表の私(吉崎)が、この答えの1つとして考える「群に対する教育」を紹介します。
なんと「井の中の蛙」がヒントなんです。

個に対する教育の加速

オンライン動画でいつでもどこでも学べる時代へ

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私は 1991 年生まれ、現在 30 歳。
私が中学生のときには塾に行くか、進研ゼミや Z 会の通信教育の教材を定期購入するかしないと学校以外の学びの環境はありませんでした。
田舎でしたが親に送り迎えをしてもらい、クラスメイトの 9 割以上が塾に通っていた記憶があります。
それが7個下の弟の頃にはスタディサプリが登場し、スマホで動画を見ながら学ぶ時代に変わっていました。
今では教育系 YouTuber の登場により、無料でも学べる環境が増えました。
2次元だった教科書を時間軸も含めた3次元にするためには塾に通う必要がありましたが、それも動画教材の発展により家でも学べるようになりました。
どこでも」に変わった瞬間です。
そして、もう1つ変わったことが動画は「いつでも」視聴することができます。
塾の授業では決まった時間に行かないと受けられなった同期的なスタイルから、非同期で授業が受けられるようになりました。
オンライン動画で学べる時代は「いつでも、どこでも」といった2つのパートで大きな変革をもたらします。

大人の教育も C2C でさらに加速

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学生に対する教育の話でしたが、もちろん社会人である大人の学びにもオンライン動画は変革をもたらします
しかも大人の学びの方が相性が良いこともありました。
高校生までの教材は文部科学省が定める方針をベースにしているため、カスタマイズできる範囲が狭く、オリジナルの教材が作りやすいです。
それに対して、大人の学びは社会で求められるありとあらゆるテーマが対象であり、企業とはいえ簡単にオリジナルの教材を作ることができませんでした。
特に技術系などは日進月歩であり、コストを掛けて作ったコンテンツが翌年には使い物にならないこともあります。
ここに Udemy を代表とした Consumer to Consumer (C2C) の教育サービスが登場します。
個人でコンテンツを作るため、教材の質とのトレードオフはあるも、多種多様なテーマの教材が提供可能になりました。
大人の学びに必要な需要を満たすことができ、私も多くの恩恵を受けました。

実はオンライン動画の終了率は低いという事実

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そんな「いつでも、どこでも」に加えて「多種多様なテーマ」という素晴らしい教育環境を提供しているオンライン教育にもとんでもない落とし穴があるのです。
それは終了率が異常なくらい低いこと
以下の論文によると、ベンチマークとして大学の授業などを多く無料で提供している MOOCs (Massive Open Online Courses) の平均終了率は 4~5% なんです。
海外の大学の最高峰の内容を最高峰の教授陣が手掛ける授業でもほとんどが視聴完了されないのです。

良い教育の構成要素は「教材」と「講師」の質だけ?

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良い教育とは何か? とよくある議題ですが、わかりやすい構成要素が「教材」と「講師」です。
圧倒的にわかりやすい教材、そして圧倒的にわかりやすい解説をする講師。
恥ずかしながら、以前の私もこの2つを極めることが教育企業としての行く先だと思っていました。
そういった意味では、これまでに累計 50,000 名を超えた方に受講していただいた AI の基礎を学べる [キカガク流] 人工知能・機械学習脱ブラックボックスコース は1つの完成形と言えるかも知れません。
ただし、このコースも平均終了率は 約 10% でした。
先述した MOOCs の例よりは2倍程度の終了率となっていますが、それでも 90% の人は終了していません
教材」と「講師」が良い教育に対して寄与率の高い構成要素であれば、これを極めた結果としては 80~90% の方が視聴完了するはずです。
つまり、視聴完了してもらうためにはもっと他に寄与率の高い構成要素があるのです。
補足 1
視聴完了だけを教育のゴールとして設計しているわけではなく、受講した人材の活躍を計測しています。多くのケースが視聴完了後から次のステップへ進むと想定されるため、活躍の前提として視聴完了を据えています。
補足 2
ごく一部のオンライン配信でも学習が完了できる人には「教材」と「講師」の質が非常に重要と言えるため、弊社ではこれからもこの2点も追い求め続けます。これ以降は多くの人に目を向けるため、この視聴完了が高い人は議論の対象外とします。

オンラインでもリアルタイムのライブオン研修がずっと人気な理由

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コロナ禍で教室に集まって学べる環境が提供できなくなりました。
これにより、Zoom や Teams などのオンライン環境で講義を提供するように変わります。
オンラインであれば動画を撮影して、YouTube や Netflix のようにオンデマンド配信で良いのでは?と仮説がありました。
そこで、リアルタイムで時間を拘束するライブオン研修と、いつでもどこでも受けられるオンデマンド配信の研修の両方を提供してみます。
もちろん値段はオンデマンド配信の方が安くライブオン研修の 1/2 ~ 1/3 程度です。
社会人向けの研修という前提ですが、どちらが人気だったかというと、圧倒的にライブオン研修でした。
平均終了率は 95% 以上と非常に高く、仕事の都合でどうしても抜けないといけない場合を除き、みなさんきっちりと終了されます。
つまり、このライブオン研修にこそ、視聴完了してもらうために寄与率が高い構成要素が含まれているのです。
受講生へヒアリングを行い、なぜ視聴が完了できたのかを要素分解すると以下の3つがありました。
  1. 時間の確保(チームからの理解もある)
  2. 仲間の存在(モチベーションの維持)
  3. 質疑応答
3 番目の質疑応答に関しては、オンライン配信系のサービスでは Q&A を作って対応していることもあります。
しかし、これがあっても終了率はそこまで高まっていないことを考えると寄与率はそこまで高くなさそうです。
つまり、時間の確保仲間の2つが鍵であることが推測できます。
しかも、同じ時間に学ぶという時間を確保すれば、必然的に同じタイミングで学ぶ仲間が生まれるので、これらは同時に満たすことができます。
ここから見えてきた教育に必要な構成要素として面白いのが、オンライン教育によって得られていた「いつでも」というパートを多くの人が本当は求めていなかったのです。

「個」から「群」に対する教育へ

ずっと受けてきた学校の教育は群であった

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オンライン教育の加速は「いつでもどこでも」という視点以外に「個人で学ぶ」とも捉えることができます。
振り返ってみると、私達が学校や塾で受けてきた教育は常に集団、つまり「群で学ぶ」ように設計されていました。
この学び方が平均終了率が高いという現代のオンライン教育の変遷から導かれたものではないと思いますが、原点回帰しています。
ただし、昔と異なるのは「どこでも」という要素に関してはメリットが大きく、オンラインの恩恵は大きくあります。
大学も高いお金を払って一人暮らしをしなくても通えるようになりましたし、地方と都会の情報格差も減っています。
また嬉しかった声としては、お子さんがいらっしゃる家庭でも自宅から受講できることで、学びに来てくれる方が多くなったことです。
これからの時代の教育は「オンライン × 仲間」といった同期的な要素も含んだものになると予想しています。

群に対する教育は経営目線の組織論がヒント

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「オンライン × 仲間」というとオンラインサロンがこの条件を満たしています。
教育という文脈では語られることが少ないオンラインサロンですが、教育とマッチすると考えています。
現在、私が主催している起業家コミュニティ fwywd(フュード)オンラインサロンに近しいと言えます。
ただし、多くのオンラインサロンと異なる点もあります。
私の知る限り多くのオンラインサロンは企画の発端であるリーダー格の人がいて、その人との繋がりを求める人が集まるぶら下がり型です。
芸能人のファンクラブというとわかりやすいですね。
fwywd(フュード) では私との繋がりという面もありますが、それよりもコミュニティ間の会話を中心としています。
これは私がこれまで作ってきた経営の経験に基づき組織論から設計しています。

コミュニケーションには適切なサイズ設計が必要

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今の段階では以下のような構造を作っています。
  1. チーム(5~8 人)→ 最も密に同期的にコミュニケーションを取る集団
  2. バンド(30~40 人)→ 非同期でコミュニケーションを取る集団(6 チーム程度のまとまり)
  3. コミュニティ(全員)→ イベント等で出会う集団
人数が多くなってくると、バンドよりも大きな単位を随時作っていきます。
この辺りはすでに経営としての組織論として適切なサイズ設計が議論されているため、先人の知恵をお借りするだけです。
教育の問題は教育カテゴリーで議論したり調査しがちですが、結局は組織が一番人を成長させており、経営の組織論で教育を見るべきだと現在では私は考えています。
コミュニティとして全てをまとめないことには私の失敗談があります。
fwywd(フュード) の1期では合格した人から順次 Slack で作っていたコミュニティに参加してもらいました。
最初は盛り上がったのですが、後から入ってくる人がコミュニティの適性の有無を問わず、ほとんど会話に参加できなかったのです。
それも当然で、会話には文脈 (context) の理解が不可欠であり、これがない状態だったと言えます。
どれだけ大きなコミュニティであったとしても、会話しているのはごく一部という経験がないでしょうか。
これは後から参加した人の能力が低いのではありません。
会話に必要な構成要素を欠いている結果なのです。
この失敗談から文脈を共有しやすいように、目的を持った小さな単位のチームに分けること。
そして、チームの始まりのタイミングを一斉にスタート(同期)することに決めました。
その結果、現在の fwywd(フュード) はコミュニケーションが以前よりも遥かに多くなりました。
また、コミュニティオーナーの私一強のぶら下がり型からも徐々に解放されていき、望ましいコミュニティの形へ遷移しつつあります。

井の中の蛙が人の可能性を開花させる

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ここでようやく本題であった「井の中の蛙」です。
コミュニティ内のチームのサイズを小さく設計したデメリットは情報の正しさが確保しにくくなることです。
答えを持たない素人同士の議論ではカオスになることがありますよね。
ここへの対策もあります。
チームで解決できないことは1階層上のバンドに投げかけて解決していけるような流れがあります。
また最終的には私が解決に手を貸すこともあります。
チーム内での議論がカオスになるデメリットもありますが、本当はメリットの方が大きいと思っています。
素人同士でも自信を持って議論することって大切じゃないですか
専門家に見張られていると、怖くて自分の意見って出せなくなりませんか?
情報の成否は別としても自信を持って話ができることで主体性が高まり、情報を調べる感度が高まり、結果的に正しい情報にたどり着きやすくなると予想しています。
これがまさに「井の中の蛙」です。
最初から海王類ばかりの大海原に放たれると怖くて何もできなくないですか。
それだったら、世間知らずかも知れないですが、まずは守られた井戸の中で成長できた方がよっぽど良いと思っています。
成長したら次のもう少しだけ大きな井戸に入りかえることを繰り返せば良いじゃないですか。
ルフィもそうやって七武海と戦えるレベルになっていき、今や四皇と戦うまでになりました。
最初の島にいる敵から四皇のカイドウやビッグマムだったら、ワンピースはそうそうに終わっていたはずです。
海王類ばかりの大海原とワンピースの例えましたが、私達の学校教育もそうなっていました。
私は超田舎の学校に入ったお陰で、成績優秀という位置づけをもらうことができ、だからこそ勉強が楽しかった記憶があります。
まさに井の中の蛙で、高専に入ったら上には上がいて、京大に入ったらさらに上には上がいて...。
それでも順番に上がっていけたから、なんとか今に繋がっています。
井の中の蛙」って、実はどんなヒーローの物語にもあるのではないかと思います。

海王類ばかりの大海原よりも身の丈にあった井戸から

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Twitter で AI やソフトウェア・エンジニアリング、起業など専門分野について発言をするのは私でも恐怖でしかありません。
こんな環境では超一強だけが育ち、それ以外の人は餌にすぎないとさえ感じます。
ツヨツヨな人の意見だけが飛び交う上級社会と化した SNS
まさに、海王類ばかりの大海原のようです。
いつの日か、こんな大海原でも暴れまわれる存在になるために、まずは小さな井戸から始めてみませんか。
詳しくは ↓↓ でお待ちしております。
長文お読みいただき、誠にありがとうございました。
株式会社キカガク 代表取締役会長
吉崎 亮介